2026-04-15

工藤莞司の注目裁判:登録商標「恋苺」と使用商標「あわ恋いちご」は非類似として控訴が認容された事例

(令和8年2月13日 大阪高裁令和7年(ネ)第1750号 「あわ恋いちご」侵害控訴事件 原審令和7年7月17日 大阪地裁令和6年(ワ)第5007号)                                      

事案の概要
 本件は、被控訴人(一審原告・商標権者)が、控訴人(一審被告)に対し、控訴人の本件商標と類似する被告標章「あわ恋いちご」をパッケージに付したいちご同梱の商品(被告各商品)を販売する行為が、 31類 「いちご、いちごの種子、いちごの苗」に係る本件商標「恋苺(縦書き)」の商標権(登録第5006976号)の侵害行為に該当するとして、商標法36条に基づく被告各商品の販売の差止めと被告標章の抹消を求める事案で、原審は、被控訴人の請求をいずれも認容したので、これを被告が不服として控訴した事案である。              

判 旨
 被告標章の構成中には、本件商標と同じ称呼を生ずる「恋いちご」が含まれているが、被告標章は、「あわ恋いちご」をやや丸みのある文字をやや円弧状に横書きしたものであり、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているであるから、「恋いちご」だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。・・・これに対して被控訴人は、被告標章の冒頭「あわ」の部分は、旧国名としての地名「阿波」を想起させるもので、商品の産地又は販売地を意味するにすぎないため出所識別機能を有さず、「恋いちご」のが出所識別機能を担う要部と主張する。確かに、被告各商品のパッケージの表面のデザインからは、被告標章の「あわ」から地名「阿波」が想起されるといえる。しかし、被告標章のみで観察した場合、「あわ」からは、「阿波」のみならず「泡」、「粟」、「安房」、「淡」も想起され得ることからすると、被告各商品のパッケージの表面のデザインにおいて被告標章の「あわ」から地名「阿波」が想起されるのは、被告各商品のパッケージの表面に被告標章と共に「徳島県産」の表記、阿波踊りの踊り手・・・のイラストが描かれ、これらの記載類から、被告標章の「あわ」が地名「阿波」の意味を有することが示唆されているからというべきである。・・・そして、被告標章を付された上記デザインのパッケージがいちごを同梱した被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情を考慮すると、被告標章の構成中の「いちご」は商品の普通名詞であるから、「あわ恋」は、既存の言葉に「淡い恋心」、「淡い恋」などがあり、「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されると考えられるから、被告標章は「あわ恋」と「いちご」 が結合した標章で、「あわ恋」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じているというべきである。そうすると、被告標章が上記デザインのパッケージに付されることによって、「あわ」から地名である「阿波」が想起されるとしても、上記デザインのパッケージがいちごを同梱商品とする被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情の下においては、被告標章は、「あわ恋」 と「いちご」を組み合わせた結合商標であることを前提に、「あわ恋」の「あわ」の部分に被告各商品の産地である地名の「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないと考えられることになるから、被告標章と本件商標の類否を判断するに当たっては、被告標章を「あわ」と「恋いちご」に分離して観察することは許されないというべきである。・・・(3) そこで以上を踏まえて類否を判断すると、本件商標は、漢字を縦書きしているのに対し、被告標章は「恋」以外を平仮名で表記し、やや丸みのある書体の文字を等間隔にやや円弧状に1行かつ一連で横書きしたものであって外観において明らかに異なり、また本件商標は「コイイチゴ」の称呼を生ずるのに対し、被告標章は「アワコイイチゴ」の称呼を生ずるものであって重なる部分はあるものの、文字数が異なり称呼が類似しているとはいえない。そして、いずれも果実の名称いちごに、本来、味覚を表現しない心理、感情状態の語を組み合わせて、当該果実の味覚を表現するという手法で造られた言葉であるが、「恋」と「淡い恋」で違う観念が想起されるから、これといちごを組み合わせることで生ずる観念も類似するとはいえず、したがって、本件商標と被告標章は全体として類似するということはできない。                                          

コメント
 本件事案では、前掲の通り本件控訴審は、両商標は非類似と判断して、原審を覆し取り消したものであるが、被告標章「あわ恋いちご」についての「あわ」の観察が違い、原審が地域名称「阿波」を意味し産地表示としたのに対して、本件控訴審では、産地表示と掛けたものにすぎず「淡い恋」で違う観念が想起されるとしたため、類否判断の結論が違ってしまった。被告の使用で併記している「徳島県産」は、「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないとした。微妙ではあるが、「阿波産」ではないから理解されよう。